昼間の信号機

パパ活で貯金を作っている、メンヘラ社会不適合者の女です。主にパパ活での出来事などを書いています。

人間嫌いのパパ活日記⑱-今度こそガルバ体験入店に行ってきた③

少しの休憩後、「あそこのお客さんについて」と指示されたのは騒がしい5人組のお客さんの卓だった。私がついた時点でかなり出来上がっており、相当に騒がしい卓だ。一対一の落ち着いた接客はパパ活で慣れているのもありそんなに苦手ではないが、そもそもがコミュ障陰キャであるためこういう騒がしい飲み会ノリの集団接客は苦手な部類だった。そもそも飲み会への参加経験があまりにも少ない。

 


1人のお客さんに1人の女の子がつくシステムであるため、私の他にも4人の女の子が既に卓についていた。その中には一緒にキャッチをやっていたド陽キャのSちゃんも含まれており、上手いこと場を盛り上げている。ドリンクを頂いて乾杯をしたは良いものの、実質Sちゃんがずっと1人で卓を切り盛りしていたようなものだった。

 


どうやらこの5人組のお客さんはどこかの会社の偉い人たちであるらしい。見たところ全員が20代後半から30代といったところで、その日のお会計を持つらしい、髭面で人相の悪い人物が皆から「社長」と呼ばれていた。

5人組ではあるのだが、何となく3:2の構図が生まれており、「社長」含む上司組3人と、比較的若い部下の2人で場が分かれているようだ。Sちゃんは「社長」に取り入って、実際気に入ってもらえたらしく、イッキをしまくってドリンクバックをガンガン稼いでいた。それに便乗するように、もう2人の女の子もイッキをしまくっている。

 


私はもう1人の女の子と一緒に、部下2人組の接客をする形となった。私と同じく騒がしい卓が苦手らしい彼女が、「この卓マジで最悪……早く離れたいですね」と耳打ちしてきた。

 

 

 

上司組3人がかなり昭和臭い男ノリで飲んでいるのに対し、部下2人からは最近の若者という印象を受けた。聞いても大丈夫ですか?と断りを入れて「社長」たち3人との関係を聞いたら、「社長」はやはり社長なのだと言う。2人は「社長」の部下で、1人は「社長」に心酔しているようだったが、もう1人は曖昧な微笑みを浮かべていた。まぁそういうことなのだろう。


曖昧な微笑みを浮かべていた方のお客さんのことは強く印象に残っていて、今でもよく覚えている。彼のことを仮にIさんとしよう。


Iさんに初々しいね、新人?と聞かれたので体験入店ですと白状したところ、それは大変だねと言ってくれた。

「俺の元カノがねぇ、ガールズバーで働いてたから色々と詳しいよ」

「そうなんですか?」

「そうそう。お酒の代わりに水入れたりするとかね」

「え! 本当に詳しいんですね」

すると一緒に接客していたキャストさんが、横から「でも私とこの子が今飲んでるやつは本当にお酒入ってますよ!」と抗議の声を上げる。

「本当に〜?」

「本当ですって! まぁお酒に見えるお水のボトルが置いてあるのも本当ですけど……」

 


そんなことを話していたら、「社長」たち3人組から「お前これ歌える〜?」とマイクが回ってきた。どうやら「社長」たちがノリでカラオケを入れたが、1番のサビから先を歌える人がいなかったらしい。

驚いたことにIさんは、つい数瞬前まで私たちと落ち着いて話をしていたのがまったく嘘のように、「社長」たち3人のノリにぴったり嵌る調子で、バックナンバーの何とやらを熱唱し始めたのだ。「社長」たちは満足だったようで、「お前歌上手いな〜!」と盛り上がる。

しかし途中から飽きてしまったのか、「社長」たちはカラオケをIさんに丸投げしてSちゃんとのお喋りに戻ってしまった。Iさんは誰も聞いていないカラオケを1人で歌い切り、「マイクどうすればいい?」と聞いてきた。マイクは結局再び「社長」たちの手に渡った。

 


その後も基本的には3人と2人に分かれて飲みつつも、定期的に「社長」たちから絡まれ、そのたびにIさんは器用に男臭い昭和ノリをこなした。反面私たちと話している時は、穏やかな物腰で余裕のある平成ボーイといったかんじだ。整った顔立ちをしていたことや、元カノがガルバで働いていたという話も相俟って、遊び慣れしておりスマートに遊んで綺麗に帰るタイプの人、という印象を受ける。でもそれは、ガールズバーのキャストからしたらそういうお客さんが1番助かるからそういうふうに振舞っているだけなのではないか、という気もする。実際私たちキャスト陣にかなり気を遣ってくれていて、体入の私に色々と声をかけてくれたり、ドリンク大丈夫?と聞いてくれたりした。

 


昭和ノリをしている時と私たちキャストと話している時、どちらの方が素に近いのかは分からなかった。ただ、色んな方向に器用に気を遣って話すIさんの姿を見ていたら、何となく友人のことを思い出した。Iさんと友人は結構似ているように思えた。

 

 

 

そろそろお会計という段になった時、「社長」が席を立ち、「ちょっとお前こっち来い」と店の奥にIさんを手招きした。「社長」とIさんはしばらく戻って来なかった。流石に不穏なものを感じて、私ともう1人のキャストは「なんか怒られてません?」「お会計のことですかね」「あっ、私たちに勝手に1杯ドリンク入れたから……?」などとヒソヒソ話し合う。「社長」に心酔している方の部下が「社長は優しいから大丈夫だよ」と言うが、そんな分厚い色眼鏡込みの発言ではあまり信頼できない。体感5分ほど経ってやっと戻ってきたIさんに「大丈夫でしたか……?」とこっそり聞くと、「大丈夫大丈夫!」と返ってきたが、「社長」の顔つきを見る限りそんなに大丈夫ではなかった可能性が高そうだ。

 


このお店はお客さんとの連絡先交換が必須ではない。が、やる気のあるキャストは自ら連絡先を交換して、営業をかけても良いらしい。「社長」に気に入られることに成功したSちゃんは、「LINE交換しようよ!」とスマホを取り出し、順番に交換し始めた。本当にやる気のあるキャスト以外は連絡先交換をしていないらしく、Sちゃん以外がスマホを取り出す様子はない。「社長」たち3人とLINEを交換し終え、Iさんに「お兄さんたちもLINE交換しよ!」とSちゃんがスマホを差し出すと、「俺はいいかな」とIさんは断った。そして、「どっちかというと俺はこの子とLINE交換したい」と私を指差したのである。

「わ、私ですか?」

「うん。……ダメ? あっもしかしてお店のルールがあったり……」

ここに入店するかも分からないし、入店しなければ二度と会うこともないだろう。しかしこのしんどい卓で随分良くしていただいたし、友人と重ねて見ていたこともあり、私はLINEの交換を了承した。

この時LINEのホーム画を市ヶ谷駅の前にある有名な釣り堀(様々な漫画やアニメにたびたび登場する)の写真にしていたのだが、LINEを交換したIさんの第一声が「あっ、有名な釣り堀だ!」だったのでIさんはオタク趣味のある人だったことが判明した。せっかく趣味が一致しそうだったのに接客中にその話題まで至れなかったのは、ひとえに私の話術の不足である。無念。

 

 

 

5人のお客さんを見送り、カウンター内の片付けを手伝っていると、内勤さんが「(源氏名)ちゃん、上がっていいよ」と言った。トイレで貸し衣装から着替え、衣装を返しにお店の奥にある事務所スペースに行くと、内勤さんが何やら書類を書いている後ろでSちゃんが煙草をふかしていた。

「あぁ(源氏名)ちゃん、お疲れ。これ、今日体入してもらった分のお給金ね」

そう言って内勤さんは私に4000円を手渡した。時給にドリンクバックも合わせて絶対に4000円以上分働いていると思うのだが、どうやら日払いの限度額が4000円らしく、入店しなければそれ以上の分はタダ働きとなるらしい。

「今日どうだった? 入店できそう?」

「うーん、初めてなのでできれば他のお店も見てみたくて……2週間くらい待っていただくことってできますか?」

「いいよ。色々見て決めなね」

内勤さんとそんな会話をしていると、Sちゃんが煙草を吸いながら、

「え、ガルバだったらウチ紹介しようか?」

と声をかけてきた。齢18にして紹介できるガルバを持つSちゃん、何者なんだ……。

「ほんと? いやでも紹介してもらってもし入店しなかったら色々と不都合なこととか起きない?」

「あ〜、それは確かに」

Sちゃんはあっさり引いて、また煙草を吸った。……あれ?

「ていうかSちゃん、煙草……同い年だよね?」

私が恐る恐るそう聞くと、Sちゃんはニッコリ笑って

「ウチ、年確されたことない」

と言った。圧倒的強者感。

 

 

 

 


そんなこんなで私は内勤さんとSちゃんにお礼を言い、店を後にした。雨上がりの7月の夜は蒸し暑く、酔いが回り始めていたこともあり、私は現実感がないまま、ふわふわとした心地で駅まで歩いた。

酒を飲んだのは初めてではないが、酔うほど飲んだのは初めてだった。はじめて酔っ払いになった私は、まぁ言うても大して酔ってねぇなと思いながら家とは逆向きの電車に乗り、慌てて正しい向きの電車に乗って乗り過ごし、引き返したらまた乗り過ごし、乗り換えで電車を間違え……と、電車関連で起こりうる間違いのパターンをほぼ全てやり尽くした。どうやら結構酔っていたらしい。

 


理性というか、物事を考える力、判断力みたいなものが著しく低下していた。全てが何となくふわっとしたかんじになり、世のメンヘラが決まってストゼロ缶を持つのも分かる気がした。自分は35までには自殺したい、とずっと言っているものの、何だかんだ怖くて死ねないまま年老いていくのだと思っていた。だが、酒がこんなにも思考力を奪ってくれるなら話は別だ。この状態ならきっと死ねる。死ぬ時は酒を飲もうと、私はこの日の帰り道でそう決めた。

 


この状態で家に帰って親に色々バレたらヤバいな、と頭では分かっていたが、どこかで酔いを覚ましてから帰るという考えには至らず、ひたすらお茶を飲む以外の対策は特にしなかった。が、幸い家に着く頃にはすっかりシラフに戻っていた。

 

鞄を開けると、内勤さんにもらったもみじ饅頭が出てきた。キャストの1人からのお土産だと言う。「それどうしたの?」と母に尋ねられたので、「今日遊んだ子にもらった。実家から送られてきたんだって」と適当なことを言った。母は「ふうん」と気のない返事をして、それ以上追求してこなかった。

 

 

 

【おわり】